社会人になって12年、会社を辞めた。
30代半ばだった。
それまでは海外関係の仕事をしていた。
当然だが、駐在、出張が多かった。
海外での食事は困ることはなかったが、なぜか30歳を過ぎたころから、だんだんと海外へ行くのが嫌になり、食べ物に拒否反応がでるようになっていた。
東京への転勤を機に会社を辞めることにした。
日本人として日本を知らないことにいら立ちを感じはじめていたこともある。
失業保険をもらいながら毎日自分探しをした。
突然夜中に金縛りになった。
初めての体験でうれしかった。
これで霊を見れるようになるかもしれないと喜んだ。
金縛りは二日連続だった。
世間で言われるように身動きできない。
指一本も動かせない。
眼球だけが機能していて、周りをうかがうことができた。
周りには何となく人の気配がして、わたしを取り囲みながらのぞき込んでいるように感じた。
怖いという感覚はなかった。
かすかに声が聞こえたような気がした。
遠くのほうでひそひそ話をしているような声だった。
もちろん内容は聞き取れなかった。
初めての金縛りから数日が過ぎたころだった。
久しぶりに親類から電話があった。
ある商品の説明会に誘われた。
濃縮微生物エキスの説明会だった。
説明会の会場で会った人と急接近することになんり、その商品を扱う会社を始めることになった。
私は何が何だかわからないうちに取締役になっていた。
ひと月が過ぎたころなんだか違うような気がして辞めてしまった。
すると今度はその商品の総販売元の会社の自然食品店の店長になっていた。
今まで海外との取引しかしてこなかった私はまったくの門外漢だった。
私は激流に浮かぶゴムボートに乗っている一人の男に過ぎないのかもしれないと感じていた。
ゴムボートは沈まないがよく揺れる乗り物だった。
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